スピリチュアル・ロハス小説『天上のシンフォニー』公式サイト

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 悟と愛玲はコルカタの空港に降り立っていた。以前来た時はカルカッタと呼ばれていたが、それは大英帝国統治時代に命名されたものであるため、コルカタという新たなものに改名された。しかし、悟の中ではまだ新名は馴染みがなかった。外は強烈な日差しが照りつけていて、数秒のうちにじりじりと肌を焦がさんばかりになった。すぐにタクシーに乗り込む。空港を離れると、悟は驚いた。ガードレールつきで、綺麗な、アスファルトの新しい道路ができていたからだ。タクシーもエンジンがやけにスムーズで、性能がいい。こんなはずではない。インドは、カルカッタはいつのまに変わってしまったのだ。
「悪いけど他の道、行ってくれないかな」悟は言った。
「他の道? 市内に行くにはこの道が一番近いんだぞ」
「そうかもしれないけれど、これじゃ雰囲気ぶち壊しだよ。もっとないのかな、スラムのような所」
「わざわざそんな所に行かなくても」今度は愛玲が言った。
「任せてくれ。実は考えがあるんだ」悟はそう彼女に囁き、運転手に向かってこう言った。「そのぶん金ははずむからさ、旅行者のわがままだと思って聞いてくれよ」
「あんたも物好きだな。どうなっても知らないからな」運転手はため息をつきながら言うと、次の角で曲がり、メインロードを降りた。
 一歩道を外れるや、そこは別世界だった。車が通り過ぎるたびに舞い上がる道路際の土埃。ところどころに建っている掘っ立て小屋。道路の真ん中に突っ立って行く手をはばむ牛。人力車こそ走っていないものの、懐かしのオート・リキシャーがそこらじゅうを走っている。人々の服装も空港で見たものとは違い、埃で真っ黒になっていた。建設現場ではサリー姿の女性たちがレンガを運んでいる。工事現場では男の労働者がドリルでコンクリートを削っている。
 しばらくいくと大通りに出た。先ほどのようなモダンなものではない。ここはたくさんの車であふれかえっていた。車線などというものはなく、道路標識も信号もない。交差点はまさに戦場だ。激しくクラクションを鳴らし、追越しをかけようとする車。しかし前の車もなかなか道を譲ろうとはしない。四方八方から、前に進むことしか考えていない車たちが、一斉にクラクションを連発する。
「だから言わんこっちゃない」運転手もクラクション合戦に参戦する。その隙間をぬってオート・リキシャーが割り込む。さらに自転車が入り込んできたと思ったら、そのような所を横断しようなどと試みる歩行者もいるものだから、収拾がつかない。埃と排気ガスで空気は重くよどみ、エンジン音とクラクションと人の怒声がごっちゃになって襲いかかってきた。道端ではおかまいなしにチャパティーを焼いて売っている。路上のポンプで洗濯するサリー姿の女。その近くを真っ裸で駆けずり回る子供たち。あげくは堂々と大便をしている者までいる。道行くバスからは乗客があふれ、何人かはドアからはみ出してへばりついていた。悟たちの乗ったタクシーがその横ぎりぎりを走り抜けると、数人がこちらを見て笑った。
 やがてタクシーは細い路地に入った。オート・リキシャーぐらいしか通れない道に、人混みをかき分けながら強引に入り込んだ。数多くの歩行者、オート・リキシャー、自転車などがあふれかえっていたが、運転手はかまわずクラクションを連発しながら突き進んでいく。みんなどんどんよけていくが、特に驚いた様子もない。壁や店などに何度もぶつかりそうになるが、これが不思議にぎりぎりのところでぶつからない。
 そう、これがインドだ。悟にとっては懐かしい光景だった。記憶の中に埋もれていた混沌とした街並みとけだるい暑苦しさが、一気に蘇る。モダンになったインドでも、やはり一歩脇道へ入れば、まだまだスラムは残っていた。
 愛玲は、先ほどから一言も発していない。彼女の目は完全に焦点を失っている。
「インドは初めてかい?」悟は得意気になって言った。
 彼女は首を縦に振った。
「他のアジアの都市とはまた少し違うよな」彼自身、初めて来た時にはひどく衝撃を受けた。東南アジアを旅しながら当時はカルカッタと呼ばれていたコルカタに入ったのだが、そこは想像を絶する世界だった。貧困と絶望、汚穢と喧噪がないまぜになって、ねっとりと皮膚にへばりついてくる。にもかかわらず、人々のこのバイタリティはいったいどこから来るのだ。インドを出てバンコクにたどり着いた時、悟はそこが天国に思えたのを今でもよく覚えている。
 二人を乗せたタクシーは、貧乏旅行者が集まる安宿街、サダル・ストリートまでやってきた。

WEB版完売の噂の小説ついに解禁。

story2011年、ロンドンで、中山悟は旧友クレアと5年ぶりに再会した。「あなたは特別な人よ」と告げた彼女は、しかし3日後に遺体で発見され、悟も何者かに追われ始める。地球の運命が託された壮大な計画が動きだした。イギリス、インド、フランス、日本、イスラエル、アメリカ、エジプト、ケニア、香港、ペルー、アマゾン、さらには宇宙空間、アトランティス大陸、そして未来の地球へと想像を絶する旅を続けながら、悟は、国籍も人種も違う6人の仲間と出会い、地球の隠された真実を思い出していく。

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