スピリチュアル・ロハス小説『天上のシンフォニー』公式サイト

header
home news characters important place narration gallery keywords link contact
 




 草花は、穏やかに吹きつけてくる風に身を任せていた。先ほどまでの霧雨が嘘のように、頭上には青空が広がっている。真ん中に輝く太陽は、新たな活力を与えるかのように、地上に光を注いでいる。羊たちも再び草を食みはじめた。右を見ても、左を見ても、青々とした草原がどこまでも続いている。
 そんな中にどっしりと構える巨石群は、天と地を結び付けるかのように、不思議な威厳を辺り一面に放っていた。巨大な石が縦に並び、ひとつの円形を築いているこの光景には、何度見ても、畏敬の念を感じずにはいられない。
 客たちも興奮しているようだ。歓声を上げながら、最新型のモバイル・マルチメディア・コンピューターを取り出す。さっそく周りの風景を写しはじめる。女の子の何人かは東京の友達に電話をしている。小さなスクリーン上に友達の顔が現れた。彼女たちはストーンヘンジを写しながら、友達とその映像について感想を言い合っている。
 しかし、そんなもので、この空気を感じ取ることはできない。青草の匂いも嗅げなければ、羊の鳴き声だって聞こえてこない。と威勢を張るが、彼女たちのピチピチした肉体を見ると、これも所詮単なる中年のあがきに過ぎないのかと、むなしくなってくる。
 会話を中断するかのように、中山悟は大きく咳をした。三度目に、ようやくみんなの視線が集まった。姿勢を正し、できるだけ落ち着いて、話しはじめた。「ストーンヘンジはパワースポットのひとつです。土地には磁場というものがあって、昔から神社や仏閣などが建てられた場所は、霊的なエネルギーの強い磁場を持っていると言われています。英語ではそのような場所のことをパワースポットと呼び、ここストーンヘンジはグラストンベリーと並んで、イギリスでは有名な所です」
「では、このストーンサークルも、何か宗教的な儀式を行うために建てられたのですか?」先ほどからマルチメディア・コンピューターに何かを打ち込んでいた男が、質問した。分厚いメガネをかけ、あごの周りにうっすらと髭を生やしていた。
「いつ、誰が、何の目的で建てたのかは未だに解明されていません。ドルイド教の儀式に使われたとされる説や、天体の観測に使われていたという説などいろいろあります。ただ、似たようなストーンサークルはエイブベリーやフランスのカルナックなどにもあり、そこには何らかの関連性があるのではないかとも言われています」
「謎の建造物は、世界中にたくさんありますからね」メガネの男がまた言った。「エジプトのピラミッドをはじめ、メキシコのピラミッド、ペルーのマチュピチュ、カンボジアのアンコールワット」
「そうですね。それらの建造物の配置などが数学的に特殊な意味を持ち、天体の配列に関係があると唱える学者も、いることはいます。ある共通の存在が、壮大な計画のもとに、すべてを意図的に世界中に造ったという。しかし、正確には、まだ何もわかっていません。ですから、確かなことは何も言えません」
「パワースポットへ来ると、心も体も浄化され、癒されると聞いたんですけど」女の子の一人が質問した。茶髪のショートヘアーで、虹の絵が描いてあるTシャツに、革のネックレスをしていた。先端には水晶がついていて、時々太陽の光が反射して目に当たった。
「そういうふうにも言われていますね。祈りや瞑想に適した場所であるだけに、癒しの効果もあると思います」
「私は強烈なエネルギーを感じるわ」別の子が、目を瞑りながら両手を広げ、言った。
「感じる人は自分でわかると思います」しかし、そう言いながらも悟自身は何も感じなかった。実際、パワースポットと呼ばれる場所の多くに行ったことがあるが、何も感じたことがない。

 お湯が沸くと、悟はアップル・シナモン・ティーをカップに入れ、上から注いだ。フラット中に反響しているパット・メセニーに耳を傾けながら、リビングへ移動する。
「ブラザー、ツアーはどうだった?」ルームメイトのマーク・ウィリアムズが訊いた。マークは七十年代のフラワーチルドレンを真似ていた。ボサボサの長髪、伸び放題の髭、アースカラーのエスニックパンツに、年季が入って色褪せたビルケンシュトックのサンダル。七十年代生まれにもかかわらず、六十年代、七十年代を古き良き時代と呼ぶのが、彼の口癖だった。音楽のコレクションは、これに関しては悟も同様なのだが、ジョニ・ミッチェルからニール・ヤング、キャット・スティーブンス、ヴァン・モリソンにまで及んだ。マリファナは何年も前にやめた。瞑想やブレスワークなどでナチュラル・ハイを手に入れる方法を学んだからだ。
 悟はマークからブラザーと呼ばれることを好まなかった。二人は大学時代からの友人で、当時、学生の間でヒッピー文化のリバイバルがあった。悟もマークと一緒にはまっていたのだが、とっくの昔に卒業していた。もういい歳なんだから、いい加減にしてもらいたい。一度それで大きくもめたことがあったが、結局マークはやめなかった。
「まあまあだね」悟は言った。
「可愛い子はいたか?」マークは目を大きくさせながら微笑んだ。
「まあね。いつもの通りだ。可愛い、綺麗、セクシー、何でもいるよ。でも、もうオヤジだと思われてるからな」
「何を言ってるんだ、ブラザー」マークは立ち上がって、悟の胸を叩いた。「この肉体はどうだ」そして、若干膨れ上がった上腕二頭筋に触れる。「来年はミスター・ブライトンも夢じゃない」 
 悟はここのところずっと、週三回ジムに通って体を鍛えていた。しかしジムに行くなどということは、マークや他の友人たちにとってはからかいの対象だった。ヨガや太極拳と違い、筋肉トレーニングはかえって健康を損なうと思われていたからだ。そのうえたいした成果も上がっていないとなったら、ばつが悪いにもほどがある。これも所詮、単なる中年のあがきなのか。いや、すべては三年前のことが原因だ。自分でもわかっている。
「勘弁してくれよ、マーク。君には瞑想が、そして僕にはジムだ。誰だって逃避が必要だろう?」悟は笑いながら言った。
「俺の瞑想は逃避じゃないぞ……」
「いずれにしても」悟はマークの言葉を遮った。「日本の女の子はやたら歳を気にする」と言って悟はアップル・シナモン・ティーを口にする。「まあいい。君のほうは? 瞑想はどうだった?」
「ぶっとんじまったぜ、ブラザー」マークは長い腕を伸ばし、テーブルの上にあるもうひとつのカップを掴むと、ソファーに腰を降ろした。「プレアデスに行ってきたぜ。それからシリウスだ。極楽浄土満点だったぜ」彼はそう言って軽く髭を掴んだ。
「そいつはすごいな」悟はいつものように適当にそう答えた。まいった、まいった。妄想にそこまではまり込むことができるなんて、たいした才能だ。決して瞑想も神秘体験も否定するわけではない。どちらかというと肯定するほうだろう。しかし、あまりにも単純に超常現象を受け入れる姿勢には抵抗がある。特に、悟の周りにはその手の人間が多かった。どこまでが純粋な神秘体験で、どこまでが思い込みなのかがわからない。もっとも、マークだけは許せた。あそこまで極端さを徹底させていると憎みたくても憎めない。
「一日中瞑想なんかしてないで、君こそ地球人の女の子に意識を向けたほうがいいんじゃないのか」
「俺の波動レベルに合う子がいればな。ナターシャまでの女はなかなかいない」
「ナターシャ?」
「プレアデス人だ」
「ああ、そうだった」悟は首をゆっくり縦に振りながら言った。「君の彼女だったな」
 悟がカップを取ろうとした時、電話が鳴った。そのまま受話器に手を伸ばす。「もしもし」
「悟! クレアよ」
 一瞬考え込んでから、すぐ思い出して、言った。「クレア! 久しぶりだな。元気?」十年前にスコットランドにあるフィンドホーンという共同体で知り合った女性だ。その後何回か会ったことがあるが、ここ五年ほどは会っていない。
「しばらくアメリカに行っていたの。最近帰ってきて」
「そうか。アメリカに行っていたんだよね。どうだった?」
「素晴らしかったわ。いろいろ話したいことがあるから、会えない?」
「ぜひとも。来週は日本に帰るから、その後がいいかな」
「ツアーグループを迎えに行くんでしょ?」
「知ってるのか?」
「そう、スーザンに聞いたの」スーザンはフィンドホーンで会った共通の友人だった。
「そうなんだ。出張が入ってね。ついでに一週間だけ休みもらって、里帰りもしてこようかと思って」
「それでぜひ話したいことがあるんだけど、その前に会えないかしら?」
「その前はびっしり詰まっていて、ちょっと難しいね」
「そこを何とかならないかしら。日曜日は?」
「日曜日か」唯一あいているとすればその日だが、マークの知り合いが出演する芝居を見に行くことになっている。もうチケットも買ってあった。
「折り返しかけてもいい?」
「今、公衆電話からだから、五分後にかけなおすわ」
 電話を切ると、悟はマークを見た。
「ブラザー、女のために、俺との予定をキャンセルするつもりか」
「いや、そういうんじゃなくて、久しぶりに会う友達だし、日本に帰る前に会いたいって言うし……」
「クレア……。待てよ。クレアってあのクレアか。五年前に一晩ハグしながら同じベッドで寝たけれど、アンジェラの手前何もできなかったという、例の彼女か?」
 悟は頷いた。
「オー・マイ・ゴッド! 彼女はセクシーだ。ここで俺がノーと言ったら君に一生恨まれるな」
 とマークが言ったところで電話が鳴った。マークはニコニコしながら首を縦に振っている。  
「日曜日、だいじょうぶだ」電話に出ると、悟はそう答えた。

WEB版完売の噂の小説ついに解禁。

story2011年、ロンドンで、中山悟は旧友クレアと5年ぶりに再会した。「あなたは特別な人よ」と告げた彼女は、しかし3日後に遺体で発見され、悟も何者かに追われ始める。地球の運命が託された壮大な計画が動きだした。イギリス、インド、フランス、日本、イスラエル、アメリカ、エジプト、ケニア、香港、ペルー、アマゾン、さらには宇宙空間、アトランティス大陸、そして未来の地球へと想像を絶する旅を続けながら、悟は、国籍も人種も違う6人の仲間と出会い、地球の隠された真実を思い出していく。

footer1
Copyright(C)2007 goldentemple2012. All rights reserved.
footer2
footer